あいけませんよ」
「いや、それは未練だ」と、長八は叱るように云った。「お北が幸之助と裏口で立ち話をしているのを、妹も二、三度見たことがあると云うのだ。お秋も今まで隠していたが、これも二人の立ち話を時々に見たと云う。してみれば、証拠は十分だ。長三郎、決して容赦《ようしゃ》するなよ。おまえは年の割合には剣術も上達している。万一、幸之助が邪魔をして、刀でも抜いて嚇《おど》かすようなことがあったらば、お前も抜いて斬ってしまえ」
 内心はどうだか知らないが、父としては斯う命令するよりほかは無かったのであろう。
 長八は更に我が子にむかって、探索《たんさく》の心あたり四、五カ所を云い聞かせると、長三郎は委細《いさい》こころえて、父の前を退いた。そうして、直ぐに表へ出る支度をしていると、母は幾らかの小遣い銭を呉れて、その出ぎわに又ささやいた。
「お父さまはああ云っているけれども、なにしろ総領むすめなんだからね。おまえに取っても姉さんなのだから……」
 長三郎は無言でうなずいて出たが、なにぶんにも困った役目を云い付かったと、彼は悲しく思った。
 姉を庇《かば》う母の心はよく判っているが、この場合、一刻
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