を見て、吉五郎はまた舌打ちした。
「畜生。ひとを玩具《おもちゃ》にしやあがる」
ふたりは直ぐに駈け寄ると、蝶の影は消えるように見えなくなった。
留吉は提灯をふりまわして、しきりにそこらを照らして見たが、それらしい物の影もないので、彼は焦《じ》れて無闇に駈け廻った。吉五郎も梟《ふくろう》のように眼を見張って、暗いなかを覗いて歩いたが、それもやはり無効であった。
往来の絶えた寺門前の闇のなかに、大の男ふたりが一生懸命駈け廻って蝶を追っているのは、どうしても狐に化かされたような図である。しかも今の彼等はそんなことを考えている暇はなかった。
「ほんとうに人を馬鹿にしていやあがる。忌々《いまいま》しい奴だな」と、留吉は息をつきながら云った。
吉五郎も立ち停まって溜め息をついた。
いかに焦《じ》れても、燥《あせ》っても、怪しい蝶はもうその影を見せないのである。ふたりはあきらめて顔を見合わせた。
「親分。どうしましょう」
「仕方がねえ。又どっかで見付かるだろう」
「これからどうします」
「むむ。おれの考えじゃあ……」と、云いかけて、吉五郎は俄かに見返った。「留。あれを取っ捉まえろ」
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