白魚河岸に住んで、白魚の御納屋に勤めている。その次男の幸之助はことし廿歳《はたち》で、行くゆくは黒沼の娘お勝の婿になるという内相談も出来ていたのであるから、この際早速にその縁組を取り結ぶことにした。勿論それについてお富にもお勝にも異存はなかった。吉田の家でも不慮の出来事におどろくと共に、当然の処置として幸之助の養子縁組をこころよく承諾した。
すべての手続きはとどこおりなく運ばれて、黒沼の家には何のさわりもなく幸之助がその跡目を相続することになったので、関係者一同も先ずほっ[#「ほっ」に傍点]とした。伝兵衛の死も表向きは急死という届け出になっているのであるから、死骸の検視のことも無くて、そのまま菩提寺へ送られた。
こうして、この奇怪なる事件も闇から闇へ葬られてしまったが、解けやらない疑いの雲は関係者の胸を鎖《とざ》していた。長三郎は飛んだことに係り合った為に、勿論その両親から厳しく叱られたが、今さら取り返しの付かないことである。それよりも気にかかるのはかの藤助の身の上で、万一その口から当夜の秘密を世間に拡められては面倒である。長八はその翌朝、長三郎を遣わして[#「遣わして」は底本では
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