す。藤助は火の番の役がありますので、夜中そこらを徘徊して居りましても、誰も怪しむ者もござりません。藤助にはお冬という片眼の娘がありまして、これが生まれ付き素ばしこい人間でありますので、蝶を飛ばす役はお冬が勤め、父の藤助はその後見《こうけん》を致して居ったようでござります。その蝶は……秘伝と申して誰にも洩らしませんでしたが、何か唐《から》渡りの薄い絹のような物で作りまして、それに一種の薬を塗ってありますので、暗いなかでも白く光るのでござります。音羽の近辺ばかりでは、人に覚られる虞《おそ》れがありますので、時々には他の土地へも参ったようでござりました。右の次第で、その蝶に毒があろうとは思われません。それを見て病気に罹《かか》ったなどと申しますのは、驚きの余りに発熱でも致したのでござりますまいか。それとも、その塗り薬に何かの毒でも混じてありましたか、それはわたくしも存じません。又お近が火の番の藤助とどうして心安くなりましたか。それもわたくしは存じません。佐藤の屋敷も以前は勝手|不如意《ふにょい》でござりましたが、長崎出役以来、よほど内福になったとか申すことでござります」
 黒沼伝兵衛は何者に
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