》に立つので、お近は一と足おくれて帰って来て、そっと音羽の屋敷に忍び込んだ。
一種の治外法権《ちがいほうけん》ともいうべき旗本屋敷に潜伏して、無事に月日を送っていれば、容易に町方《まちかた》の眼にも触れなかったのであるが、お近は江戸へ帰ると、間もなく更に新らしい恋人を見つけ出した。それは白魚河岸の吉田の次男幸之助である。吉田と佐藤とは母方の縁を引いている関係から双方が親しく交際していたので、お近も自然に幸之助と親しくなって、佐藤の眼をぬすんで新らしい恋人と逢曳きするようになったが、男は女よりも八歳の年下であるので、若い恋人に対するお近の愛情は猛火のように燃えあがった。彼女は男を逃がさない手段として、自分の秘密を幸之助に打ち明けて、万一変心するときは隠居殺しの共謀者としてお前を抱いてゆくと嚇した。こんにちと違って、この時代には斯《こ》ういう威嚇が案外に有効であったのである。たとい自分の無実が証明されるとしても、こんな女のかかり合いで奉行所の審問《しんもん》を受けたなどと云うことが世間に暴露《ばくろ》すれば、長い一生を暗黒に葬らなければならない。年の若い幸之助は飛んだ者にかかり合ったのを
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