は本当かと云うことだったが、お前も病気で寝ているから、あとで好く訊いておくと返事をして置いたのさ。そうすると黒沼の小父さんは、それでは又来ると云って出て行ったが、その足で音羽の通りへ出て、あの水引屋の……市川屋の店へ行って、職人の源蔵に逢って、何かいろいろ詮議をした末に、源蔵を案内者にして、お寺の方まで行ったのだとさ」
黒沼伝兵衛は娘の病気から白い蝶の一件を聞き出したが、元来そういうたぐいの怪談を信じない彼は、一応その虚実を詮議するために、そのとき一緒に道連れになったと云う市川屋の源蔵をたずねたのである。その結果を早く知りたいので、お北は忙がわしく訊いた。
「それからどうして……」
「あの小父《おじ》さんのことだからね」とお由は少しく笑顔を見せた。「なんでも源蔵を叱るように追いまわして、その蝶々を見たのはどの辺かということを厳重に調べたらしい。蝶々は生垣をくぐってお寺の墓場へ飛んで行ったと云うので、今度はお寺へはいって墓場を一々見てあるいたが、別にこれぞという手がかりも無く、蝶々の死骸らしい物も見付からなかったそうだよ。それでもまだ気が済まないと見えて、黒沼の小父さんはお寺の玄関へま
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