屋敷の者も知っているが、そのあとはどうしたのか判らねえ。夜が明けてみると、隠居は寝床のなかに死んでいた。酔って正体もなしに寝ているところを、剃刀《かみそり》のようなもので喉を突いたらしい。手箱のなかに入れてあった三十両ほどの金がなくなっている。お亀のすがたは見えねえ」
「隠居を殺して逃げたのか。凄い女だな」
「いくら隠居でも、妾に殺されたと云うことが世間にきこえちゃあ、屋敷の外聞にもかかわるから、表向きは急病頓死と披露して、それはまあ無事に済んだのだが、当主の身になると現在の親を殺されてそのままにゃあ済まされねえ。そこで、八丁堀の旦那のところへ内々で頼んで来て、お亀のゆくえを穿索して貰いたいと云うのだ。おれ達も旦那方の内意をうけて当分はいろいろに手を廻してみたが、お亀のありかは判らねえ。なかなか悧巧《りこう》な女らしいから、素早く草鞋《わらじ》は穿《は》いてしまって、もう江戸の飯を食っちゃあいねえらしい」
「なんで隠居を殺したんだろう」
「隠居には随分可愛がられて、いう目が出ている身の上だから、三十両ぐらいの金が欲しさに、主殺しをする筈のねえのは判り切っている。三十両は行きがけの駄賃に
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