まったようで、犬の声もだんだんに遠くなりました」
「どっちの方へ遠くなったえ」
「橋の方へ……」
「もうほかに話してくれることは無いかね」
「へえ」
「いや、大きに御苦労。この後も何か気のついたことがあったら教えてくんねえ」
「かしこまりました」
 源蔵はほっ[#「ほっ」に傍点]としたように立ち去った。それを見送って、吉五郎は子分にささやいた。
「正直そうな奴だな」
「小博奕《こばくち》ぐらいは打つでしょうが、人間は正直者ですよ」と、兼松は答えた。「そこで、親分。今の話の様子じゃあ、ゆうべ此の辺で人間の死骸を運んだ奴があるらしゅうござんすね」
「むむ。まんざら心当たりがねえでもねえ。おれもたった今、留の野郎から聞いたんだが……。おい、耳を貸せ」
 吉五郎は再びささやくと、兼松は顔をしかめながら幾たびかうなずいた。
「へえ、そんなことがあったんですか。夜なかに寺の庭さきで男と女がむしり合いをして……。じゃあ、その女が息を止められたんでしょうね」
「まあ、そうだろうな」
「女は誰でしょう。お冬でしょうか」
「さあ、それが判らねえ。この一件にはお冬と、御賄屋敷を家出したお北という女と、佐藤の
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