いまいま》しいのを堪《こら》えながらおとなしく訊《き》いた。
「おまえは何か見たらしい。見たなら見たと云って正直に教えてくれ。わたしもあの蝶々について詮議をしているのだから……」
「そうですか」と、吉五郎はすこし考えながら答えた。「折角ですが、それは申し上げられません。あなたも御覧になったのなら格別、わたくしの口からは申されません。こう申したら、定めて意地のわるい奴だとおぼしめすかも知れませんが、御用を勤めている者はみんなそうです。そこで、あなたはどういうわけで、あの蝶々を御詮議なさるんです」
「別にどうと云うこともないが、このごろ世間で評判が高いから……」
「唯それだけの事でございますか」と、吉五郎は相手の顔色をうかがいながら云った。「まだほかに、何か仔細があるのじゃあございませんか」
「ほかに仔細はない」と、長三郎は強く云い切った。
「仔細がなければよろしいのですが……」と、吉五郎は又もや意味ありげに云った。「時におあねえ様はもうお屋敷へお帰りになりましたか」
長三郎はぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]とした。さすがは商売だけに、岡っ引は早くも姉の家出を知っているのである。さてその返答
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