をうけました」
「今日の刑法では、誰も重い罪にはならない筈ですが、昔はみんな重罪です。まず伊豆屋の方から云いますと、お八重はもう死んでいますが、しん吉は死罪、しかしお仕置にならないうちに牢死しました。和泉屋の幾次郎は主人の女房と密通した上に、いろいろの悪事をたくらんだので獄門、女房のお大も死罪になりました。友蔵はほかにも悪い事をしているので、これも死罪。いくら江戸時代でも、これだけ一度に死罪を出すのは大事《おおごと》です。
 和泉屋は前の清七の一件があり、又もや死罪が二人も出たので、女房の幽霊が出るの、手代の幽霊が出るのという評判、とうとう店を張り切れなくなって、さすがの旧家もどこへか退転してしまいました。伊豆屋の方は無事に商売していましたが、これも維新後にどこへか立ち去ったようです」
 云いかけて、老人は耳を傾けた。
「おや、雨の音が……。あしたの小金井行きはあぶのうござんすよ」

 雨はあしたの日曜まで降りつづいて、わたしの小金井行きはとうとうお流れになった。その翌年の五月なかばに、半七老人の去年の話を思い出して、晴れた日曜日の朝から小金井へ出てゆくと、堤《どて》の桜はもう青葉にな
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