のか」
 云いながら起きて来たのは、年ごろ四十二、三の、色の赭《あか》黒い、頬ひげの濃い、見るからに人相のよくない大男であった。彼は三人をじろじろ睨んで、俄かに声をあらくした。
「え、ひやかしちゃあいけねえ。おめえ達はその鳥を知っているのか。それは鵜だよ。荒鵜だよ。おめえ達のような人間の買う物じゃあねえぜ」
「鵜は知っているが、値を訊いてみたのよ」と、善八は答えた。
「それだからひやかしだと云うのだ。江戸の人間が鵜を買って行って、どうするのだ。それとも此の頃の江戸じゃあ、鵜を煮て喰うのが流行るのか。朝っぱらからばかばかしい。帰れ、帰れ」と、彼は眼をひからせて呶鳴った。
「まあ、堪忍してくんねえ」と、半七は喙《くち》をいれた。「まったくおめえの云う通り、鵜を買って行っても土産にゃあならねえ。話のたねに値段を訊いただけのことだから、ひやかしと云われりゃあ一言もねえ。だが、この鵜は何処で捕ったのだね」
「四、五日前に何処からか飛び込んで来たのよ。おおかた明神の森へ帰る奴が戸惑いをしたのだろう。森にいる奴を捕るのはやかましいが、おれの家へ舞い込んで来たのを捕るのは、おれの勝手だ。そいつは荒鵜の
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