があります。しかし女の首は珍らしい。そこで、この女も何か隠密のような役目を勤めていた為に、幕府方の者に殺されたか、攘夷組に斬られたか、二つに一つだろうという噂が一番有力でしたが、さてどこの者か一向に判りません。
迷惑したのは小栗家で、自分の屋敷の門前に据えてあったのですから、係り合いは逃《の》がれられません。橋の上にでも晒してあったのならば格別、この屋敷の前に据えてあった以上、なにかの因縁がありそうに思われても仕方がありません。小栗家でもひどく迷惑して、用人の淵辺新八という人がわたくしの所へ駈けて来て、一日も早くこの事件の正体を突き留めてくれという頼みです。用人が来たのは検視その他が済んだ後で、二十三日の夕方でした。
用人の話によると、小栗の屋敷はどこまでも係り合いで、女の首と碁盤とはひとまず其の屋敷の菩提寺、亀戸《かめいど》の慈作寺に預けることになったと云うのです。まったく関係の無いものなら、飛んだ災難です」
「むかしは武家に首はめでたいと云ったそうですが……」
「ふるい云い伝えに、元禄十四年の正月元旦、永代橋ぎわの大河内という屋敷の玄関に女の生首を置いて行った者がある。屋敷じゅ
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