「それでも私たちには判らない事がいろいろあります」と、わたしはまだ手帳をひろげていた。「そこで、伊勢屋の主人を調べたら、どんなことを申し立てたんです」
「さすがは大家《たいけ》の主人だけに、何もかも正直にはきはきと答えました。万力は抱え屋敷に申し訳ないと云って、腹を切ろうとまで覚悟したのを、由兵衛がいろいろになだめて、まあ無事に済ませたのだそうです。それからお俊を引いて本所に世帯を持たせ、いわゆる囲い者にして、由兵衛が世話をしていました。前にも申す通り、お俊は鼠が大嫌い、その本所の家に鼠が出て困るというので、例の碁盤を持ち込んだのですが、由兵衛の話では不思議に鼠が出なくなったと云うことです。
 それで小半年は何事もなかったのですが、十一月頃になって、お俊は頻りに何処へか引っ越したいと云う。そこで、浅草の駒形《こまかた》の方に借家をさがして、十一月二十三日には引っ越す筈になったので、例の碁盤はいったん伊勢屋へ返すことになりました。その前日の二十二日の朝、万力が伊勢屋へ来た時にその話を聞いて、それじゃあ私が取って来ましょうと云って気軽に出て行きました。
 万力はそれぎり帰って来なかったが
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