あらためたが、ここにはなんの獲物もなかった。
三
「柘榴伊勢屋の亭主は船遊びが好きで、お俊が柳橋にいる頃から、一緒に大川へ出たことがあるそうだと、角屋の番頭が何ごころなくしゃべったのは、天の与えだ」と、半七は歩きながら云った。「これから柳橋へ行って船宿《ふなやど》を調べてみよう。案外の掘出し物があるかも知れねえ」
「だが、親分。例の首はお俊じゃあ無さそうですぜ。誰に聞いても、お俊にあばたはねえと云いますから」
「そりゃあそうだが、まあ、もう少しおれに附き合ってくれ」
無理に松吉を引き摺って、半七は更に柳橋の船宿をたずねた。
ここらの船宿は大抵知っているので、その一軒について聞き合わせると、柘榴伊勢屋が馴染の船宿は三州屋であるとすぐに判った。三州屋の店の前には、長半纏を着た若い船頭が犬にからかっていた。
「おい、よしねえよ」と、半七は笑いながら声をかけた。「いい若けえ者が酒屋の御用じゃああるめえし、犬っころを相手に日向《ひなた》ぼっこは面白くねえぜ」
半七の顔をみて、徳次という船頭は笑いながら挨拶した。
「いいお天気だが寒うござんす。まあ、親分。お上がんなさい」
「い
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