があるように思うんですがね。親分もそう思いますか」
二人の意見は一致したが、さてそれが何者であるかは容易に思い出せなかった。やがて女中が運んで来た膳を前にして、二人は寒さ凌ぎに一杯飲みはじめた。話の邪魔になる女中を遠ざけて、松吉はまた云い出した。
「一体この一件は、まったく小栗の屋敷に係り合いがないんでしょうか」
「用人はなんにも心当たりがないと云っている。首になっている女の顔も曾《かつ》て見たことが無いという。しかしそれが本当だかどうだか判らねえ。そこで此の一件は、まず第一に小栗の屋敷に係り合いがあるか無いかを突き留める事と、もう一つは、なぜあんな碁盤に首を乗せて置いたかと云うことを詮索しなけりゃあならねえ」
「小栗の主人は碁を打つのでしょうか」
「おれもそれを考えたが、用人の話を聞いても、住職の話を聞いても、小栗の主人は碁も将棋も嫌いで、そんな勝負をした例《ためし》は無いと云うのだ」
小栗家の主人昌之助は三十一歳で、妻のお道とのあいだに、昌太郎お梅の子供がある。昌之助の弟銀之助はことし二十二歳で、深川|籾蔵前《もみくらまえ》の大瀬喜十郎という二百石取りの旗本屋敷へ養子に貰われて
前へ
次へ
全42ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング