んで、細い針を畳越しに突きあげ、むしろの上に投げられた賽を自由に踊らせるのである。松蔵は穴熊の手だてを応用して、土の下から地蔵を踊らせようとしたのてある。
 最初の試みに成功したので、地蔵を踊らせるのは源右衛門の役になった。小坊主の智心も時時は面白半分に手伝った。それが又、図にあたって、一旦は繁昌したが、地蔵が踊るなどは奇怪であるというので、寺社方から何かの沙汰がありそうな噂もきこえた。その詮議がむずかしくなっては面倒であるから、もうそろそろ見切りを付けようかと云っている時、八月十二日から十三日にかけて大風雨《おおあらし》がつづいた。
 十四日はぬぐったような快晴であったので、月の昇る頃から源右衛門はいつものように抜け道へくぐり込んだ。しかも地蔵は踊らないで、今夜の参詣人を失望させた。源右衛門も再び出て来なかった。不思議に思って、智心をくぐらせてやると、抜け道は途中で行き止まりになっていた。二日つづきの風雨に地面の土がゆるんで、あたかも源右衛門の上に落ちかかったらしく、彼はそのまま生き埋めの最期《さいご》を遂げたのであった。
 その報告におどろかされて、寺中の者共は駈け付けた。了哲と定
前へ 次へ
全45ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング