だんだんに遠ざかって、賽銭その他も昔とは大きな相違であるから、毎々の無心は肯《き》かれないと申し聞かせますと、それならばいい工夫がある……と云うのが地蔵の踊りで、コロリ除《よ》けと云い触らせば、きっと繁昌すると云うのでござります。忌《いや》だと云えば、縛られ地蔵の秘密をあばくと云う。俊乗も気が弱く、わたくしも気が弱く、どうで地獄へ堕《お》ちる以上、毒食わば皿と云ったような、出家にあるまじき度胸を据えて……。いや、よんどころなく度胸を据えることになりまして……」
 松蔵は石屋であるから、地蔵を動かす仕掛けは彼が引き受けた。墓地にある無縁の石塔を倒して、その下から門前の地蔵堂へかよう横穴の抜け道を作った。その穴掘り役は寺男の源右衛門と納所の了哲に云い付けられたが、寺男も納所も愚直一方の人間であるので、師匠と俊乗の指図を素直に引き受けた。その設計はとどこおりなく成就して、地面の下の抜け道を松蔵が最初にくぐって見た。
「穴熊がうまく行ったと、本人は申して居りました」と、祥慶は云った。
「むむ。穴熊か」と、半七は思わずほほえんだ。
 穴熊というのは、いかさま博突などをする場合、その同類が床下に忍
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