は茗荷谷ですが、それから遠くない第六天|町《ちょう》に高源寺という浄土の寺がありました。高源寺か高厳寺か、ちょっと忘れてしまいましたが、まあ高源寺としてお話を致しましょう。これも可なりの寺でしたが、この寺の門前にも縛られ地蔵というものが出現しました。林泉寺に比べると、ずっと新らしいもので、なんでも安政の大地震後に出来たものだそうです」
「そういう地蔵を新規に拵えたんですか」
「まあ、拵えたと云えば云うのですが……。高源寺の住職の夢に地蔵尊があらわれて、我れは寺内の墓地の隅にあって、土中に埋めらるること二百余年、今や結縁《けちえん》の時節到来して人間に出現することとなった。我れを縛って祈願するものは、諸願成就うたがい無からん。夜が明ければ、墓地の北の隅にある大銀杏の根を掘ってみよ、云々《うんぬん》というお告げがあったので、その翌朝すぐに掘ってみると、果たして大銀杏の下から三尺あまりの石地蔵があらわれ出たというわけで……。嘘か本当か、昔はしばしばこんな話がありました。そこで、高源寺でもその地蔵さまを門前に祀《まつ》って、やはり小さいお堂をこしらえて、林泉寺同様の縛られ地蔵を拝ませる事になり
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