半七も首をかしげた。「仕様のねえ奴だな」
「まったく仕様のねえ奴らで、どうにも斯うにも手の着けようがありませんよ」と、云いかけて亀吉は思い出したように声を低めた。「唯ひとつ、こんな事を小耳に挟《はさ》んだのですが……。なんでもひと月ほど前の事だそうで、門前町のはずれに住んでいる塩煎餅屋のおかみさんが、茗荷谷の方へ用達しに出ると、その途中で花星のお住を見かけたのですが、お住は二十歳《はたち》ぐらいの小綺麗な田舎娘と一緒に歩いていたそうです」
「その田舎娘というのは縛られていた女か」と、半七はあわただしく訊き返した。
「さあ、それが確かに判らねえので……」と、亀吉は小鬢《こびん》をかいた。「煎餅屋のかみさんは例の一件を聞いた時、そんなものを見るのも忌《いや》だと云って、近所でありながら覗きにも行かなかったので、同じ女かどうだか判らねえと云うのですよ。もし同じ人間なら面白いのですが……」
「同じ人間だろう。いや、同じ人間に相違ねえ」
「そうでしょうか。かみさんの話じゃあ、お住は薄あばたこそあれ、容貌《きりょう》は悪くねえ。連れの娘はあばたも無し、容貌もいい、顔立ちが肖《に》ているので、ちょい
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