仙を相手に話していた。
「おまえさん。この方がさっきから待っておいでなすったんですよ」と、お仙は彼女を半七に紹介した。そうして、その土産だという交肴《こうこう》の籠を見せた。
「初めましてお目にかかります」と、女は丁寧に挨拶した。「わたくしは神明前のさつきでございます」
その名を聞いて、半七はすぐに思い当たった。彼女はさつきのお力《りき》で、なにか三甚に係り合いのことで尋ねて来たのであろうと察したので、ひと通りの挨拶を済ませた後に、半七は訊いた。
「おかみさんも忙がしいだろうに、朝から何か急用でも出来《しゅったい》しましたかえ」
「早朝からお邪魔に出ましたのは、ほかでもございません。親分も定めて御承知でございましょうが、先月の二十三日に伝馬町の牢抜けがございましたそうで……。それに付きまして、少々お知恵を拝借に出ましたのでございますが……」
「牢抜けは知っていますが、それがどうかしましたかえ」
「実は……」と、お力は少しく渋りながら云い出した。「その牢抜けのなかに石町《こくちょう》の金蔵というのが居りますそうで……」
その金蔵の仕返しをお力親子は恐れているのであった。召捕りの手引き
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