うしろの柳の木へぐいぐいと押し付けた。一人は早縄を半七の手首にかけた。
「馬鹿野郎、明きめくら……。人違げえを知らねえか」
いくら呶鳴っても、相手は肯《き》かない。店の方からも加勢として、亭主や料理番や、近所の男らしいのが五、六人駈け集まって来た。こうなっては所詮かなわない。三河町の半七、多勢に押さえ付けられて、とうとうお縄を頂戴した。
「ざまあ見やがれ」と、男のひとりは勝ち誇るように云った。
「おれたちに汗を掻かせやがって……。この野郎、引っぱたくから、そう思え」と、他のひとりも罵った。
引っぱたかれては堪らないので、半七も素直にあやまった。
「まあ、堪忍してくれ。神妙にするよ」
「そんなら、なぜ始めから神妙にしねえ。どうで首のねえ奴だ。生きているうちに、ちっと痛てえ思いをして置け」と、一人がまた罵った。
「首のねえ奴……。一体おれを誰だと思っているのだ」
「知れたことだ。石町無宿の金蔵よ」
半七は呆気《あっけ》に取られたが、やがてにやにやと笑い出した。
五
半七を縛ったのは、ここらを縄張りにしている戸塚の市蔵の子分らであった。神田と戸塚と距《はな》れていても、
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