染《あいそめ》とかいう源氏名で勤めていたそうですが、これも地震で潰されたと云うことでした」
「みんな運の悪い人たちでしたね」と、わたしは溜め息をついた。
「増村の家に地震の怪我人は無かったそうですが、店は丸焼けになったので、その後は商売も寂れたようでした。今になって考えると、江戸三百年のあいだに、どんな悪戯をしても、どんな悪洒落をしても、江戸城の大玄関前へ行って天下を渡せと呶鳴ったものはない。全くこれが天下を渡す前触れだったのか知れませんね」
 老人も嘆息した。



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(六)」光文社文庫、光文社
   1986(昭和61)年12月20日初版1刷発行
入力:tatsuki
校正:菅野朋子
2000年1月12日公開
2004年3月1日修正
青空文庫作成ファイル:
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