らねえので……」と、亀吉は首をかしげながら云った。「江戸の女衒《ぜげん》が玉を見に来て、二月の晦日にいったん帰って、三月の二十七日にまた出直して来て、金を渡して本人を連れて行ったそうですが、その勤めさきを駒八の家では秘し隠しにしているので、どうも確かに判りません。御用の声でおどかせば云わせる術《すべ》もありますが、なにかの邪魔になるといけねえと思って、今度は猫をかぶって帰って来ました。なに、近いところだから造作《ぞうさ》はねえ、用があったら又出掛けますよ」
「その女衒はなんという奴だ」
「戸沢長屋のお葉《よう》です」
「女か」
「亭主は化け地蔵の松五郎といって、女衒仲間でも幅を利かしていた奴ですが、二、三年前から中気《ちゅうき》で身動きが出来なくなりました。女房のお葉は品川の勤めあがりで、なかなかしっかりした奴、こいつが表向きは亭主の名前で、自分が商売をしているのですが、女の方が却って話がうまく運ぶと見えて、いい玉を掘り出して来るという噂です。年は三十五で、垢抜けのした女ですよ」
「番太郎へ次郎兵衛をたずねて来たのは、そのお葉だな」
「それに相違ありません。あしたすぐに行ってみましょう
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