でなく、宇都宮の粂次郎であるらしいが、いずれにしても笠の持ち主を見つけ出せば、それからひいて其の本人を突き留めることも出来る。半七はよろこんで万屋の店を出た。
四月になって、番太郎の店でも焼芋を売らなくなった。駄菓子とちっとばかりの荒物をならべている店のまえに立つと、要作は町内の使で何処へか出たらしく、女房のお霜が店番をしていた。それを横目に見ながら、半七は隣りの自身番へはいると、定番《じょうばん》の五平があわてて挨拶した。
「早速だが、ここの番太の夫婦はどんな人間ですね。川越の生まれだそうですが……」
「へえ」と、五平は俄かに顔を曇らせた。「なにかのお調べですか」
「御用だ。正直に云ってくれ」
「要作は三十一で、女房のお霜はたしか二十八だと思います。川越の者に相違ございません」
「要作には次郎兵衛という弟があるそうだね」
「要作の弟ではございません。女房の弟だと聞いていますが……」と、五平はいよいよ迷惑そうな顔をしていた。
自身番の者も城中の一件を知っているのである。川越の次郎兵衛のことも知っているらしい。しかもそれが番太郎の親類縁者であるということが発覚すると、その時代の習いと
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