に出て来ましたそうで……。それが五日の日から行方《ゆくえ》が知れなくなりました」
「番太郎の兄貴の家にいたのですね」
「そうでございます。兄を頼って来ましたので、要作から手前どもに話がありまして、こちらのお店で使ってくれないかという事でしたから、ともかくも主人に相談してみようと返事をして置きますと、その本人がすぐに姿を隠してしまいましたので、兄の要作もひどく心配して居ります」
「お前さんはその次郎兵衛という男に逢いましたかえ」と、半七は訊《き》いた。
「表向きに名乗り合いは致しませんが、番太郎の店にいるのをちらりと見たことがございます。年は十九だそうですが、色のあさ黒い、眼鼻立ちのきりりとした、田舎者らしくない男で、あれなら役に立ちそうだと思って居りましたが……」
「国へ帰ったという知らせも無いのですか」
「知らせも無いそうです。尤も要作夫婦も忙がしい体ですから、ただ心配するばかりで、別に聞き合わせてやると云うこともしないようですが……」
その以上のことは番頭も知らないらしかった。しかしそれだけの事を偶然に聞き出したのは、意外の掘出し物である。江戸城へはいりこんだ本人は川越の次郎兵衛
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