その米吉が又いけないのです」
「どうしました」
「王子辺の川のなかで浮いていました」
「殺されたんですか」
「豹に啖《く》われて……」
「本当に啖われたんですか」
「と、まあ、云っているのですが……」と、老人は笑った。「わたくしはその死骸を見ませんでしたが、なにかの獣《けもの》に体を啖われていたそうです。野良犬に咬まれたのでしょうね。坊主あがりの良住と一緒に押込みを働いて、ふところは相当に重い筈ですから、どこかの大部屋へでも遊びに行って打ち殺されたか、ごろつき仲間にでも狙われたか、それとも別に仔細があるのか、ともかくも誰かに打ち殺されて、死骸を王子辺のさびしい所へ捨てられた。それを野良犬どもが咬み散らして、川のなかへでも転がし込んだのでしょう。しかしその当時は豹に啖い殺されたという評判でした」
「観世物の豹は本当に逃げたんですか」
「逃げたというのは例の噂で、上州から野州の方を持ち廻っていたのだそうです。しかし、米吉の死んだのは本当です」
「そうすると、詮議の種も尽きたわけですな」と、わたしも失望したように云った。
「まあ、そういうことになります。良住という奴は髪切り一件に関係が無いと
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