鮎川の召し捕りを半七に依頼したのも、彼を巡邏隊の手に渡すまいという根井の用心であるらしい。それを察して半七も請け合って帰った。
三河町の家へ帰ると、亀吉が待っていた。
「あれから鮎川のあとを追って行くと、竹屋の渡しを渡って今戸へ越して、それから花川戸の方角へぶらぶらやって来ると、むこうから米吉の野郎が来て、両方がばったりと出逢いました。こりゃあ面白くなったと思うと、往来のまん中で立ち話、これにゃあどうも困りました。真っ昼間の往来だから近寄ることが出来ねえ。ただ遠くから様子を窺っているだけのことでしたが、二人の様子が唯でねえ。なにか捫著《もんちゃく》でもしているらしい風に見えましたが、なにしろ人通りの多い所だから、二人もいつまで捫著してもいられねえので、まあいい加減に別れてしまったようです。鮎川はそれから天神下へ行って、例の藤屋へはいり込みました」
「その鮎川はゆうべから屯所へ帰らねえそうだ」
「野郎、泊まり込んでいやがるのか。それともお房を引っ張り出して、駈け落ちでもしやあがったかな」と、亀吉は半七の顔色をうかがった。「どうしましょう。すぐに藤屋へ行ってみますか」
「そうだ、駈け落ち
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