筈だ。まあ、なにしろ行って来ます」
二人は怱々に出て行った。髪切りが人間の仕業であるとすれば、普通のいたずらとしては余りに念入りである。何者がなんの為にそんないたずらをするのかと、半七は午飯《ひるめし》をくいながら考えた。そうして、おぼろげながら一つの推測をくだした時、子分の幸次郎が忙がしそうにはいって来た。
「親分。早速ですが、いい話を聴いて来ました」
「いい話……。金でも降ったというのか」
「まぜっ返しちゃあいけねえ。実はゆうべ、浅草の代地河岸《だいちぎし》のお園《その》という女の家《うち》へ押込みがはいって、おふくろと女中の物には眼もくれず、お園の着物をいっさい担ぎ出してしまいました。それだけなら珍らしくもねえが、出ぎわにお園の髷を根元からふっつりと切って、持って行ったそうです」
「お園というのは何者だ」
「以前は深川で芸者をしていたのを、ある旦那に引かされて、おふくろと女中の三人暮らしで、代地に囲われているのです。年は二十三で、ちょいと蹈める女です。商売あがりの女だから、昔の色のいきさつで髷を切られる位のことはありそうですが、それにしちゃあ着物をみんな担ぎ出すのは暴《あら》っ
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