の知恵じゃあない、神か仏が知恵を貸してくれたようにも思われますよ」
「伝蔵は人足になっていたんですか」と、わたしは訊いた。
「何百人の人足がはいっているのですが、それを監督する人入れの組々がありますから、それについて調べれば判るわけです。伝蔵は芝の人入れの清吉の組にもぐり込んでいました。なにしろ大勢の人足を使うのですから、どこの人入れでも一々その身許詮議などをしちゃあ居られません。手足の満足な人間が使ってくれと云って来れば、構わずにどしどし働かせるのですから、伝蔵のような奴の隠れ家にはお誂え向きで、そこに早く気がつかなかったのは半七が重々の手ぬかり、まことに申し訳がありません。
 清吉の組にそれらしい奴のいることを調べ出したが、善八は伝蔵の顔を知りませんから、麹町の飼葉屋の直七を連れて行って、そっと首実検をさせると、確かに伝蔵に相違ないと云うのです。そこで、わたくしから清吉に掛け合いまして、伝蔵を逃がさないように用心させて置きました。もうこうなれば、生洲《いけす》の魚《うお》です」
「そこで、かたき討ちの様子は……」
「かたき討ちの様子……。物語らんと座を構えると、事が大仰《おおぎょう
前へ 次へ
全49ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング