じゃあありませんか」と、善八は考えながら云った。「そうすれば一応は遠州屋の奉公さきへも行って、お熊を調べたろうと思います。主殺しの伝蔵に係り合いのあると知れたらば、遠州屋でもすぐに暇を出しそうなものだが、相変らず平気で使っているのでしょうか」
「遠州屋は四十ぐらいだろうな」
「そうでしょう。四十|面《づら》をさげて、女房もあり、娘もあるくせに詰まらねえ女なんぞに引っかかって、たびたびぼろを出すという評判ですよ。あいつ、お熊にも手を出しているのじゃありませんかね」
「むむ、笹川の息子の話じゃあ、お熊というのは汐風に吹かれて育ったにも似合わねえ、色の小白い、眼鼻立ちの満足な女だそうだ」
「それだ、それだ」と、善八は肩をゆすって笑った。「親分、きっとそうですよ。女房子《にょうぼこ》の手前があるから、どっかの二階へでもお熊を預けて置くつもりで、兄きの所へその相談に来たのかも知れませんぜ。節季《せつき》師走《しわす》に暢気《のんき》な野郎だ」
「だが、羊羹を持っているところを見ると、成田へは行ったのだろう」
「そう云わなけりゃあ家《うち》を出られねえから、柄にもねえ信心参りなぞに出かけたに違げえ
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