かねて、二人の顔を眺めていた。
「宇兵衛さんはお内ですか」と、半七は重ねて訊いた。
「居りますよ」と、女房はやはり不安そうに答えた。
この時、裏の畑からでも引き抜いて来たらしい土大根二、三本をさげて、二十八九の男が井戸端に姿をあらわした。女房は駈け寄って何かささやくと、男も不安らしい眼を据えて半七らをじっと窺っていたが、やがて大根を井戸ばたに置いて、門口に出て来た。
「宇兵衛は私ですが、おまえさん方はお江戸から来なすったのかね」
「ええ、今もおかみさんに云った通り、成田さまへ御参詣に行った帰り道に、ちょいとおたずね申しました。以前番町のお屋敷に御奉公していたお辰さんに頼まれまして……」
お辰というのはお熊の故《もと》朋輩で、福田の屋敷が滅亡の後、四谷のお城坊主の家へ奉公換えをした者である。その名は宇兵衛も聞き知っていたと見えて、俄かに打ち解けたように会釈《えしゃく》した。
「ああ、そうでしたか。番町のお屋敷に御奉公中は、妹めがいろいろ御厄介になりましたそうで……。まあ、どうぞこちらへ……」
正直者らしい宇兵衛は、うたがう様子もなしに半七らを内へ招じ入れた。
「いや、構わないで下さ
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