や風俗を詮議すると、初めの二人づれは四谷の常陸屋の子分らが伝蔵とお熊のありかを探りに来たらしく、後の一人は伝蔵自身であるらしかった。
「ともかくも宇兵衛の家《うち》へ行ってみよう」
 半七は先に立って歩き出すと、冬がれの田のあいだに小さい農家が見いだされた。門口《かどぐち》には大きい枯れすすきの一叢《ひとむら》が刈り取られずに残っていた。

     四

 すすきの蔭から覗くと、家の構えは小さいが、さのみに貧しい世帯《しょたい》とも見えないで、型ばかりの垣のなかにはかなりに広い空地《あきち》を取っていた。葉のない猫柳の下に井戸があって、女房らしい二十四五の女が何か洗い物をしていた。
 案内を求めて、半七と善八が内へはいると、女房は湿《ぬ》れ手をふきながら出て来た。
「宇兵衛さんはお内でしょうか」と、半七は丁寧に挨拶した。「わたし達は江戸の者で、成田さまへ御参詣に行った帰りでございます。これはほんのお土産のおしるしで……」
 善八に風呂敷をあけさせて、取り出した羊羹二本はきのうの貰い物であった。見識らぬ人のみやげ物を迂濶に受け取っていいか悪いかと、その判断に迷ったように、女房は手を出し
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