の馳走になって、土産物をもらったりして、暮れ六ツ過ぎた頃にここを出た。
 今夜は一泊しろとしきりに勧められたのであるが、あしたは他の一行と共に浅草辺を見物する約束になっているので、今夜のうちに馬喰町の宿へ帰らなければならないと云って、四人は暇乞いをして出た。この頃の秋の日は短いので、もうすっかり暮れ切った。ここらは場末のさびしい土地で、途中には人家の絶えたところもあり、竹藪などの生い茂っているところもある。下総屋では小僧に提灯を持たせて、青山の大通りまで送って行かせた。
 江戸の人達はさびしいと云うが、佐倉の在所《ざいしょ》に住み馴れた金右衛門らは、このくらいの所をさのみ珍らしいとも思わなかった。しかしきょうの昼間の出来事におびやかされているので、なんとなく薄気味の悪い四人は、小僧のあとに付いて黙って歩いた。谷町を出て、例の六道の辻を通りぬけて、やがて青山の大通りへ出ようとすると、そこらは道幅が一間半に足らない狭い往来で、片側は畑地、片側は竹藪になっている。その竹藪ががさりと云うかと思うと、何者か突然あらわれて小僧の持っている提灯をばっさりと切り落とした。
 あっ[#「あっ」に傍点]と
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