云う間に、金右衛門も一太刀斬られて倒れた。おさんもお種も思わず悲鳴をあげた。なにを云うにも真っ暗であるから見当が付かない。大通りへ出る方が近いと思ったので、土地の勝手を知っている小僧は真っ直ぐに逃げた。ほかの者も夢中で続いて逃げた。
 相手は追って来ないらしいので、大通りまで逃げ伸びて先ずほっ[#「ほっ」に傍点]としたが、無事に逃げおおせたのは下総屋の小僧と、為吉とお種の三人で、金右衛門とおさんが見えない。金右衛門は斬り倒されたらしいが、娘はどうしたか分からないので、三人は心配した。小僧はすぐに青山|下野守《しもつけのかみ》屋敷の辻番所へ訴えると、辻番の者もふだんから小僧の顔を識っているので、現場まで一緒に来てくれた。その提灯によって照らして見ると、金右衛門は右の肩を斬られて、朱《あけ》に染《し》みて倒れていたが、おさんの姿はそこらに見いだされなかった。
 曲者は藪から出て来たらしいと云うのであるが、その竹藪は間口《まぐち》四、五間の浅いもので、うしろは畑地になっているのであるから、曲者は再び藪をくぐって畑を越えて逃げ去ったものであろう。金右衛門はまだ息が通っていたが、その懐中《ふとこ
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