兵太夫は深手ながら息があったので、その始末を云い残して死にました。こうなると、山路郡蔵は重々の悪人で、お家に取っては金蔵破りの盗賊、千右衛門に取っては親のかたきと云うことになります。そこで千右衛門は上《かみ》に願って暇《いとま》を貰い、仇のゆくえを探しに出ました。
千右衛門は先ず京大坂を探索しましたが、更に手がかりが無いので、東海道の宿々を探しながら江戸へ下《くだ》って来て、去年の夏から一年あまりも江戸市中を徘徊しているうちに、こんにち測らずも此の六道の辻で郡蔵のすがたを見つけたので、すぐに名乗りかけて討ち果たしたと云うのです。普通の喧嘩口論とは違って、千右衛門の申し立ては立派に筋道が立っています。主家の盗賊を仕留め、あわせて自分の親のかたきを討ったのですから、辻番所でも疎略には取り扱いません。それはお手柄でござったと云うので、湯などを飲ませてくれる。金右衛門の一行四人と、荒物屋の女房と柿売りと、みなひと通りの取り調べを受けただけで帰されました。
これで先ずほっ[#「ほっ」に傍点]として、金右衛門の一行は千駄ヶ谷谷町の下総屋へ尋《たず》ねて行って、今の話などをしていると、やがてこん
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