い》の其の日より』なぞと、口説き文句も十分にあった事と察せられます。
お若と徳次郎はそこらに人が忍んでいようとは夢にも知らないで、色模様よろしくあったのですが、暗やみで其の口説き文句を聴かされている武助はやりきれません。すっかり気を悪くして癪にさわった。おまけに一杯機嫌ですからなお堪まりません。もう一つには、ここで二人にごたごたされていては、自分の仕事の邪魔になる。かたがた不意に飛び出して、斬るぞと嚇かしたので、二人は驚いて逃げる。そこへ為吉と藤助が来る、庄太とわたくしが来る。いや、もう、大騒ぎで、何もかもめちゃくちゃになってしまいました。
武助は事面倒と見て、一旦は姿を隠したのですが、なんだか不安心でもあるので、そっと引っ返して来て窺っていると、お若と徳次郎は送り還されて、これから為吉と藤助の詮議が始まりそうになったので、為吉の口から詰まらないことを喋《しゃべ》られては大事露顕の基《もと》と、だしぬけに斬って逃げたのです。それで逃げてしまえばいいのに、また引っ返して来て今度はわたくしを斬ろうとした。本人は藤助を斬るつもりだったと云っていましたが、どっちにしても又出直して来たのが不
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