に泊まっている佐倉の人達じゃあねえかね」
「そうでございますよ」
 かれらは果たして金右衛門らの一行で、その遭難の通知におどろいて、これから様子を見とどけに行く途中であった。丁度いい人達に逢ったと喜んで、半七は三人を路ばたの大榎《おおえのき》の下へ呼び込んだ。
「わたしはお上の御用聞きで、この一件を調べに来たのだ。米屋の下総屋の亭主は金右衛門と従弟《いとこ》同士だというが、全くそうかね」
「いえ、亭主ではございません。女房が従妹同士なのでございます」と、三人のうちで年長《としかさ》の益蔵という男が答えた。
「米屋の茂兵衛はいつ頃から江戸へ出て来たのだね」
「十年ほど前に江戸へ出まして、最初は深川で米屋をして居りました。それから唯今の千駄ヶ谷へ引っ越したのでございます」
「茂兵衛の女房はおととしの暮れに死んだそうだが、名はなんと云うね」
「お稲と申しました」
「子供は無いのだね」
「無いように聞いております」
「金右衛門は八年ほど前に江戸へ出たことがあるそうだね」
「はい。茂兵衛がまだ深川にいる時でございまして」
「金右衛門は茂兵衛に金の貸しでもあるかえ」
「そんなことは一向に聞いて居り
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