衛門らと同村の生まれである。
 これだけのことを調べた上で、半七は店さきで茂兵衛と立ち話をはじめた。
「金右衛門は別に他人《ひと》から恨みを受けるような心あたりはねえかね」
「ございません」と、茂兵衛ははっきり答えた。「八年ほど前に一度、江戸へ出て来たことがありまして、今度が二度目でございます。そんなわけで、江戸には碌々に知りびともない位でございますから、恨みを受けるなぞという事がある筈がございません」
「そこで、お前さんはどう思うね」と、半七は探るように訊いた。
「それですから、何が何だか一向に見当が付きません」と、茂兵衛は眉をよせた。
「じゃあ、その金右衛門に逢わせて貰おう」
 店の次に茶の間があって、そこから縁側伝いで六畳の奥座敷へ通うようになっている。そこへ案内されて、半七は怪我人の枕もとに坐った。
 金右衛門は見るからに頑丈そうな男で、傷が案外に浅かった為でもあろう、顔の色は蒼ざめているが、気は確かであった。彼も茂兵衛と同様、江戸には殆ど知りびともない位であるから、恨みをうける覚えなどは更に無いと答えた。枕もとに控えている為吉兄妹もおなじ返事であった。殊に為吉らは生まれて初め
前へ 次へ
全47ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング