に異人の男ひとりは、左の頬を石に撃たれて血が流れ出した。
なにをいうにも多勢《たぜい》に無勢《ぶぜい》ですから、こうなったら逃げるよりほかはない。異人たちは真っ蒼になって坂下の方へ逃げました。別手組も一緒に逃げました。弥次馬は閧《とき》の声をあげて追って来る。事の仔細をよくも知らないで、相手が異人だから遣《や》っ付けてしまえと、無我夢中で加勢に出て来る者もある。敵はだんだんに殖えて来るばかりで、中には屋根に昇って瓦を投げる者がある。石ころでも竹切れでも、薪《まき》ざっぽうでも、手あたり次第に投げつけるのだから防ぎ切れない。異人たち三人も別手組もみな大小の疵を負って、血だらけになって逃げる。いや、飛んだ災難で気の毒でした。
この騒ぎを聞きつけて、もう一人の別手組が駈けて来たが、これもどうすることも出来ない。早く馬に乗って逃げろと注意したんですが、大勢の敵に隔てられて、馬をつないである空地《あきち》の方角へ行くことが出来ない。結局、馬は置き捨てにして、命からがら池《いけ》の端《はた》の辺まで逃げました。異人たちはここへ来る途中で何か買物なぞをして来たんですが、それもみんな抛《ほう》り出
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