牽いて行って、捨て値に売ってしまいました。殺して太鼓の皮に張るのです。
 こうして日本馬は処分してしまい、西洋馬は旗本屋敷の厩にはいってしまえば、容易に知れそうも無い理窟ですが、やっぱり悪いことは出来ないもので、その秘密もたちまち露顕することになりました。
 さっきもお話し申した通り、お角の借りている駄菓子屋の二階へは、長さんと平さんが一番近しく来るという。その長さんは長蔵という奴で、お角が巾着切りの相棒です。こいつもお角に気があるんですが、お角は平吉ばかりを可愛がって、長蔵の相手にならない。幸次郎はこの長蔵を取っ捉まえて詮議すると、こいつは馬の一件は大抵知っている。そこで平吉に対するやきもちから、自分の知っているだけの事をべらべら喋《しゃべ》ってしまいました。昔から色恋の恨みはおそろしい。こいつが喋ったので何もかも露顕しました。
 しかし相手が大身《たいしん》の旗本ですから、町方が迂濶に手を出すことは出来ません。そこで、町奉行所から神原家の用人をよび出して、その屋敷の馬丁平吉は行状よろしからざる者であるから、長《なが》の暇《いとま》を出したらよかろうと内々で注意しました。こう云われれ
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