は翌あさ八丁堀同心の屋敷へ行って、今度の一件に対する自分の見込みを報告し、あわせて寺社方への通達を頼んで帰った。寺社方に捕り手は無いのであるから、その承諾を得れば町方《まちかた》が手をくだしても差し支えはない。まずその手続きを済ませた上で、半七は更に北千住の掃部宿《かもんじゅく》へむかった。
きょうは朝から曇って、この二、三日のうちでも取り分けて涼しい日であった。千住の宿《しゅく》を通りぬけて、長い大橋を渡ってゆくと、荒川の秋の水が冷やかに流れていた。掃部宿へゆき着いて、丸屋という質屋をたずねると、すぐに知れた。質屋と云っても半分は農家で、相当の身上《しんしょう》であるらしい。その裏手に二軒の家作《かさく》があって、大工や左官などがはいっていた。
「もし、長さんは来ていますかえ」と、半七はそこにいる大工の小僧に訊《き》いた。
「ええ、長さんはそこにいますよ」
小僧はあたりを見まわして、一人の若い男を指さして教えた。彼は二十三四の職人であるが、しるし半纒の仕事着も着ないで、唯の浴衣《ゆかた》を着たままで、猫柳の下にぼんやりと突っ立って、他人《ひと》の仕事を眺めていた。よく見ると、かれ
前へ
次へ
全40ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング