った。斬られた角兵衛は秘密にしているにしても、人の腕を斬って往来へ投げ捨てて、世間を騒がした照之助を不問に付《ふ》して置くわけには行かない。この上はいよいよ照之助のありかを詮議しなければならないが、何をするにも寺社方の諒解を得て置かなければ不便であるので、その後の仕事を庄太と亀吉にたのんで、半七は再びここを引き揚げることにした。
彼はその足で八丁堀同心の屋敷へまわって、いっさいの経過を報告して、町奉行所から寺社方へ通達の手続きを頼んだ。それから神田の家へ帰ると、その夜更けに亀吉と源次も帰って来た。
かれらの報告によると、角兵衛は親分の弥兵衛の家で傷養生をしている。岩蔵はどうしているか判らないが、常磐津の師匠の家に寝込んでいるのではないかと思われるのは、おふくろのお金が赤坂まで金創の塗り薬を買いに行ったことである。師匠の文字吉は風邪を引いたと云って稽古を断わり、湯にも行かず引き籠っていると云うのである。
「そこで、飴屋はどうした」
「飴屋は一日来ませんでした」と、亀吉は云った。「近所の者は、きょうに限ってあの飴屋の来ないのは不思議だ。今度こそはあの飴屋の腕だろうなぞと噂をしていますよ
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