若松町の裏店《うらだな》に住んでいます。兄きも役者で市川岩蔵というのですが、芝居が半分、博奕が半分のごろつき肌で、近所の評判はよくねえ奴です。おふくろはお金といって、常磐津の師匠の文字吉の家《うち》へ雇い婆さんのように手伝いに行っていますが、こいつもなかなかしっかり[#「しっかり」に傍点]者のようです。実は照之助の家を覗きに行ったのですが、兄きも弟も留守で、家は空《から》ッぽでした」
「岩蔵はどこの小屋に出ているのだ」
「弟と一緒に、ここの芝居へ出ていたのですが、それに就いて何か面倒が起こって、この二、三日は休んでいるようです」
これで唐人飴の謎も半分は解けたように、半七は思った。最初に発見されたのは、市川岩蔵の腕である。二度目の腕は誰か判らないが、それを斬ったのは市川照之助である。照之助は兄のかたき討ちに、相手の腕を斬ったらしい。そうして、同じ唐人の衣裳の袖につつんで、同じ場所へ捨てたらしい。二度目の腕の主《ぬし》は、庄太が外科医を調べて来れば、大抵は知れる筈である。
唯わからないのは、最初からここらに立ち廻っている疑問の唐人飴屋の正体である。もう一つは、坂東小三津のゆくえ不明で
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