きであるが為ではない。そこで「国姓爺合戦」を上演していたからである。そうして、案の如くに一つの手がかりを掴んだ。まだそれだけでは此の事件を完全に解決することは出来なかった。彼は文字吉に就いても考えなければならなかった。小三津や照之助についても考えなければならなかった。
あくる日の午前《ひるまえ》に、庄太が汗をふきながら駈け込んで来た。
「親分、済みません。おおしくじりだ。まあ、堪忍しておくんなせえ」
きのうの日暮れ方に源次を帰して、彼は百人町の菩提寺にひと晩泊めて貰った。しかもその夜のうちに、眼と鼻のあいだで、又もや一つの椿事が出来《しゅったい》したと云うのである。
「どうした」と、半七は訊いた。「また斬られた奴があるのか」
「その通り……。場所も同じ羅生門横町に、唐人飴の片腕がまた落ちていました」
「そうか」と、半七はにやりと笑った。「それからどうした」
「やっぱり唐人の筒袖のままです。なんぼ羅生門横町でも、三日と経《た》たねえうちに二度も腕を斬られたのだから、近所は大騒ぎ、わっしも面くらいましたよ」
「腕は前のと同じようか」
「違います。前のは生《なま》っ白《ちろ》い腕でしたが
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