して次の一幕を見物した。次は楼門の場である。
 この場には和藤内の父母と、和藤内と錦祥女《きんしょうじょ》と、唐人と唐女が出る。錦祥女は小三の弟子の小三津《こみつ》というのが勤めていた。舞台顔で本当の年を測《はか》るのはむずかしいが、小三津はせいぜい二十四五であるらしく、眼鼻立ちの整った細面《ほそおもて》で、ここらの芝居の錦祥女には好過ぎるくらいの容貌《きりょう》であった。木戸銭十六文の宮芝居であるから、鬘《かつら》も衣裳も惨《みじ》めなほどに粗末であるのを、半七は可哀そうに思った。
 虎狩の場に出る虎もなかなかよく動いた。虎にしては胴体が小さく、なんだか犬のようにも見えたが、身軽に飛び廻って、二、三度も宙返りを打ったりして、大いに観客を喜ばせていた。女役者にこんな芸の出来る筈はない。虎は男が縫いぐるみを被《かぶ》っているに相違ないと、半七は鑑定した。

     三

 鳳閣寺の境内を出て、半七は更に久保町へむかった。ここらにも町名主《ちょうなぬし》の玄関はある。半七はその玄関をおとずれて町《ちょう》役人に逢い、かの片腕の一件についてひと通りのことを訊《き》きただしたが、庄太の報告以
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