十人も百人もいる筈はねえ。それからそれへと仲間を洗って行ったら、大抵わかるだろう」
「じゃあ、すぐに取りかかりますか」
「ともかくもそうしなけりゃあなるめえ」と、半七は云った。「丁度いいことには、下っ引の源次の友達に飴屋がある筈だ。あいつと相談してやってくれ。おれも青山へ一度行ってみよう」
云いかけて、半七は又かんがえた。
「なあ、庄太。土地の者はその飴屋を隠密だとか捕方《とりかた》だとか云っているそうだが、よもやそんなことはあるめえな」
隠密や捕吏が何かの恨みを受けた為に、或いは何かの犯罪露顕をふせぐ為に、闇討ちに逢うようなことが無いとは云えない。もしそうならば、その片腕を人目に触れるような場所へ捨てる筈はあるまい。殊に証拠となるべき唐人服の片袖をそのままに添えて置くなどは余りに用心が足らないように思われる。しかし又、世間には大胆な奴があって、わざと面当てらしくそんな事をしないとも限らない。もしそうならば、あの辺に住む悪旗本か悪御家人などの仕業《しわざ》である。相手が屋敷者であると、その詮議がむずかしいと半七は思った。
そのうちに庄太は俄かに叫んだ。
「あ、いけねえ。飛んだこと
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