のと諦めて居りましたのに、それが不意に出て来まして、しかもここの河岸であんな事を仕出来《しでか》しまして……。なんだか夢のようでございます」
「まったく悪い夢だ。実はおれも可怪《おか》しな夢を見たよ」と、半七は笑った。
「へえ」
「その夢を話して聞かそうか」
「へえ」
 なにを云うのかと、清吉は相手の顔をながめていると、半七はやはり笑いながら話しつづけた。
「なにしろ夢の話だから、辻褄《つじつま》は合わねえかも知れねえ。まあ、聴いてくれ。ここに大きい屋敷があって、本妻の奥さまとお部屋のお妾がある。奥さまも良い人で、お妾も良い人だ。これじゃあ御家騒動のおこりそうな筈がねえ。ところが、ここに一つ困ったことは、その奥さまの腹に生まれた嫡子の若殿さまというのが素晴らしい美男だ。どこでもいい男には女難がある。奥さまにお付きの女中がその若殿さまに惚れてしまった。昔から云う通り、恋に上下の隔てはねえ。女は夢中になって若殿さまにこすり[#「こすり」に傍点]付いて、とうとう出来合ってしまったという訳だ。どうで本妻になれる筈はねえが、こうなった以上、せめてはお部屋さまにでもなって、若殿さまのそばを一生離れ
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