かた推量していた。寅吉の出入りを尾けていた幸次郎は、彼が何処をどう歩いて、何者に斬られたかを窃《ひそ》かに見とどけたのであった。下手人は物蔭に窺っている幸次郎のすがたを見て、一目散に逃げてしまった。
次は二月二十八日の朝、築地南小田原町の河岸《かし》に心中の男女の死骸が発見された。それは彼《か》の三河屋の前の河岸につないである屋根船のなかの出来事で、その船は浅井の屋敷の人々を沈めたという因縁つきの物である。浅井の一件が落着《らくぢゃく》次第、当然焼き捨てらるべき船のなかで、更に第二の悲劇が演ぜられたのは、いわゆる呪いの船とでも云うべきであろうか。
しかもこの心中は噂ばかりで、その実際を見とどけた者は少なかった。その噂を聞き伝えて見物人が寄り集まって来る頃には、二つの死骸はすでに取り片付けられて、形見の船が春雨《はるさめ》に濡れているばかりであった。
「心中は綺麗な若いお武家と、若い女だ」
それを見た者は云い触らした。男は十七八の美しい武士で、女は二十歳《はたち》前後の、武家奉公でもしていたらしい風俗である。二人は船のなかに座を占めて、男は脇差で先ず女を刺し殺し、自分も咽喉《のど》
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