を殺す法もあろうじゃあねえか」
「いや、そこには又相当の理窟があります。お嬢さまのお春というのはお人形のように可愛らしい娘で、気立ても大変おとなしいのですが、どういうわけか子供のときから妾のお早によく狎《なつ》いて、お早も我が子のように可愛がっていたと云うことです。ねえ、親分。これはわっしの推量だが、奥さまの眼から見たら、お早は自分に子供が無いので、お春を手なずけて我が子のようにして、奥さまに張り合おうという料簡だろうと思われるじゃあありませんか。そうなると、我が子でもお春は可愛くない。いっそお早と一緒に沈めてしまえと、むごい料簡にならないとも限りますまい」
「いろいろ理窟をつけて考えたな」と、半七はほほえんだ。「それもまんざら無理じゃあねえ。女は案外におそろしい料簡を起こすものだ。そこで先ず奥さまの細工とすると、奥さまが直々《じきじき》に船頭に頼みゃあしめえ。誰か橋渡しをする奴がある筈だが……」
「それは女中のお信でしょう」
「むむ、船宿の姪か。そうするとお信は生きているな」
「船宿にいて、小田原町の河岸に育った女ですから、ちっとは水ごころがあるのでしょう。陸へ這いあがって、どっかに
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