ですね」と、幸次郎は少しく声を低めた。「だれが細工をしたのか知らねえが、恐らく主人を殺すつもりはなかった……。主人はいつもの通りに陸を帰ると思っていたところが、どうしてか船で帰ることになったので、云わば飛ばっちりの災難を受けたような形かと思われますね。女中三人は勿論そば杖でしょうから、そうなると妾のお早か、お嬢さまのお春か、その一人が目指されることになります。年の行かねえお嬢さまが殺されそうにも思われねえから、目指す相手はまあお早でしょうね」
「そうすると、細工人は奥さまか」と、半七は半信半疑の眉をよせた。
「まあ、そんなことらしいようですね。お早というのも評判の悪くない女ですが、なんと云っても本妻と妾、そこには人の知らない角《つの》突き合いもあろうと云うものです。奥さまが半気違いのようになって自分の屋敷に瑕が付いても構わないから、本当のことを調べあげてくれなぞと云うのも、自分のうしろ暗いのを隠そうとする為かも知れませんからね」
「心にもない亭主殺し……。それはまあそれとして、娘殺しはどうする。いくら妾が憎いと云っても、我が生みの娘まで道連れにさせることはあるめえ。なんとかして妾ひとり
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